【セカンドキャリアインタビュー vol.1】蛭間芳樹~世界が注目する銀行員~

こんにちは!
TRYJINです。
セカンドキャリアインタビューの第1回は、蛭間芳樹さんに話を伺いしました。
蛭間芳樹さんは、銀行員としてご活躍をされている一方でプライベートではホームレスサッカーのコーチとして活動。自身のこれまでのサッカーの経験が社会人生活にどう生かされるのか、また日本のサッカー界に対しての考えをお聞きしました。
【プロフィール】

蛭間芳樹氏(写真3)
▲ 撮影:渡辺裕子

蛭間 芳樹

・クラブチームのユースや県トレセンなどの選抜チームに所属し、順調なサッカー人生を送っていたが、高校時代に右足の靭帯を切る大怪我をし、現役引退。
・学生時代は、社会基盤学とくに都市の危機管理の研究に没頭し、その後、株式会社日本政策投資銀行へ入行。
商品開発の中心的な役割を果たしたBCM格付融資(企業の防災対策、事業継続対策を評価し融資金利に反映する新商品)が日本のみならず世界中で注目される。
・ホームレスサッカーチーム野武士ジャパンのコーチをボランティアで務める。
・第4回若者力大賞ユースリーダー賞受賞、世界経済フォーラム ヤング・グローバル・リーダーズ2015に選出、新しい未来を牽引する若きリーダーとして活躍

なぜサッカーの道を諦め、防災の道へ進んだのか?

Q サッカーについての経歴を教えて下さい。
小学生時代にJリーグが開幕し、三浦知良選手に憧れてサッカーを始め、
小学校4年生で下部組織のクラブチームのセレクションに合格し高校2年生までプレーしていました。
その間に地域のトレセンや県選抜等に選出されました。
Q 現役を辞められた理由は何ですか?
右足の靭帯を切ってしまったのが大きな原因です。
復帰を目指し努力しましたが、厳しいクラブチームに身を置いていたので、
「あなたは必要ない」というクラブ内の雰囲気を感じ取り辞めました。
簡単に言えばクビですね。でも今は違う形で日本代表を目指していますが(笑)
Q プロをあきらめたあとすぐに新しい目標はもてましたかビジョンはありましたか?
当時は、日常生活とサッカーが自分の全ての生活でした。
10年近くサッカー一筋の人間だったので、絶望といいますか大きな挫折でした。
正直、サッカーにのめり込んでいたので他の選択肢を考える余裕はなかったです。
でもそれは自分に限った話でなく、何かに気持ちを込めているひとはそこに志があるので他の選択肢は目に入りづらいですよね。
Q 大学時代は少年サッカーのコーチをしていたそうですが、そのまま指導者になることは考えませんでしたか?
大学時代に「防災」や「危機管理」というテーマに出会え、それを仕事で突き詰めたいと思えたのでサッカーの指導者になることを仕事にしようとは考えませんでした。
当時もう一つ考えたのは、サッカー後進国である日本で指導者を続けても、
世界に通用しないと感じたのも今の仕事を選んだ要因としては大きかったかもしれません。ちょうど欧州リーグをはじめ海外のサッカー情報が、日本に入ってきた時代だったので、日本と海外との差を選手やコーチのレベル、経営レベル様々な側面から感じていました。
いまは、Jリーグだけでなく海外で活躍する選手や岡田監督のような方もでてきていますが、まだ日本はサッカーを取り巻く全体観からすると、後進国だと感じています。女子チームが強いのは本当に彼女たちの頑張りの成果で、尊敬しています。

いずれ、日本人の監督や経営者が海外からヘットハンティングされるようになって欲しいですね。
Q 現在は銀行マンとして活躍されていますが、今の会社へ入った経緯を教えて下さい。

防災や危機管理について研究していた大学時代に、新潟中越地震や中国四川大地震が起こり多くの方が亡くなりました。
一方で防災を専門とする教授や専門家の人たちはもっと自分たちの研究や技術が広がれば救える命があるのに・・と言っていました。
そこで私は、素晴らしい研究や技術があのならば、経済や金融の仕組みの中にそれを組み込むことができれば社会はより豊かになるのではないかと考え金融の世界に進むことにしました。
よく言われる話ですが、どの研究分野も経済界それぞれが縦割りでつながりがなく、機会損失があるように感じます。
そこで、危機管理や防災の技術と金融の技術を組み合わせたいと思い日本政策投資銀行へ入行しました。
Q 具体的な仕事内容はどのようなものなのでしょうか?

現在は、BCM(Business Continuity Management)格付融資の仕事をしています。
BCM格付けとは、企業にお金を投融資する際の価値評価の中に、
「災害が起こった時に、従業員の命を守り、どうやって通常のビジネスを続けるのか」
という項目も含めて融資の利率を決定する商品です。
一般に金融というと「お金儲け」の視点から市場価値の向上や株の配当をどう増やすかと考えられがちですが、BCM格付けは、利益だけではなく中長期的に災害が起きた時にも事業を続けることができるのかといった点を見極め融資しているのが特徴です。
そのため、会社を訪問する際には、目先の利益だけでなく「大きな災害が起きた場合に備えてどう事業を継続していくか」、「顧客や従業員を守るためにどのような対策をとっているか」といった質問をし、現場を見て融資を決定します。
そして、その結果を株主や、海外の取引先、投資家に会社と一緒になって説明をします。
Q 会社での目標はなんでしょうか?
今後、日本では確実に大きな災害がおこります。例えば、地震災害に関して言えば、平成の関東大震災、南海トラフ巨大地震による関西大震災です。

それを、いつ起こるかわからないための準備ではなく、通常のビジネスの中で回る仕組みとして準備をしていきたいです。
Q 手がけた商品が世界経済フォーラム(ダボス会議)や国連などで高い評価を受けていま  すが、サッカーの経験が今の仕事に活きていることはありますか?

戦略思考やコミュニケーション、とリーダーシップなど様々な場面で活きていると思います。あとポジショニングです。マニアックな話をすると、「攻守(ONとOF)の切り替え」や「第3の動き」など、ビジネスにも通じる部分がサッカーにはたくさんあると思います。
例えば、会議中でも空気を読む時間帯と、あえて空気を読まず自分の意見を言う時間など意識しています。
サッカーでは、アタッキングゾーンで空気を読んでいるストライカーなんていませんよね(笑)そういった全てのことがサッカーとビジネスでは繋がっていくと思います。

ホームレスサッカーには日本サッカー発展のヒントがある!

Q 休日にはホームレスサッカーの指導者として関わっていますが、この競技に出会ったキッカケは何ですか?社会人1年目の時にビッグイシュー※1の販売支援を手伝う機会がありました。その時に隣で雑誌を売っていたホームレスの方から「今度の土曜日サッカーするけど、来ない?」と誘われたのがきっかけです。
※1 ホームレスの社会復帰に貢献することを目指す会社で世界中に組織がある。

「どうしてサッカーをやっているんですか」と聞くと、「俺、日本代表を目指しているから」と言われた時は「え、何で!?」と思いました(笑)
まさか、ホームレスの人がサッカーやっているなんて知らなかったので、そのやりとりは今でも鮮明に覚えています。
Q 私も何度か練習に参加させてもらいましたが、ホームレスの方もボランティアの方も楽しそうにプレーしているのが印象的でした。ホームレスサッカーの魅力はどういったところでしょうか?

私が経験してきたサッカーは、勝負事としてのサッカーでいつクビにされるか分からないスポーツでした。
でも、初めてホームレスサッカーのあの空間に触れた瞬間に、自分が経験したことのないサッカーだと感じたんです。
ホームレスサッカーの練習には年齢もや境遇も様々な人が集まりますが、基本的に怒ることはなく良い部分を見つけて褒める文化があります。小さな良いプレーでもみんな自然と声を出してあって盛り上がっているんです。
そうゆうシーンってプロスポーツでも、会社でもあまりないと思うんです。みんな笑顔でハイタッチし合う職場なんてないですよね。私が知らないだけかもしれませんが。

このチームの目標は選手の自立や次のステージへ進むのを応援するというものです。相手に勝つのではなく、自分自身に挑戦しながらも、チームのメンバーが互いを認め合う安全地域のようになっていると思います。
Q 少年サッカーのご指導もされていましたが、ホームレスサッカーの指導との違いはありますか?

練習のメニュー自体は小学生低学年の子どもに教えるのと同じようなものです。
「できるだけ多くボールに触れてみよう」「リフティングをしてみよう」という感じです。
違いは歳を重ねているおじさんが多いということですかね(笑)
ホームレスの方々は全て自分の判断で生きてきいるので、良い意味でも悪い意味でも主張してきます。
「試合がしたいのに、なぜこんなに基礎練習が長いんだ」とか。
最初は自分のほうが年齢も低いので選手に警戒されていましたが、今は信頼関係ができてきたように思います(笑)。
Q 2011年にはパリでワールドカップが開催され、日本代表野武士ジャパンも大会に参加しましたが印象的だったことはなんですか?

ホームレスの方々はいつどうなるか分からない状況で日々暮らしてきているので、
1人1人のキャラクターも強烈といいますか・・個性的です。(笑)
そのメンバーが1つのチームとして大会に出場することやゴールを目指すので、みんな最初は戸惑いがあり、その後には真剣であるからこその衝突も多々ありました。
また、パリへ行くためには当然パスポートが必要なのですが、住民票や戸籍までない方もいたので、パスポートの取得には苦労しました。身分を証明する為に十数年ぶりに家族へ勇気をもって連絡をした人もいました。
Q ホームレスサッカーの直面している課題は何でしょうか?

現在はJFAやJクラブからなかなか協力や支援を受けられていません。
その理由はホームレスの人に対してのネガティブなレッテルを張られている社会的背景があるように思います。
海外はサッカーの可能性を更に広げる為に、ホームレスサッカーの支援に活発です。
UEFAや大手スポーツブランドが大会スポンサーをしたり、欧州のビッグクラブの試合前にホームレスチームを招いたり、サッカーというスポーツを使って社会をより良いものにしていこうとしています。
ホームレスW杯の強豪国メキシコは2万人の中から代表選手を選ぶ国内大会があるそうです。あくまで私の感覚ですが、この人たちプロでも通用するのでは?と思うことも多々ありました。実際にホームレスW杯をきっかけに、海外ではプレミアでプロ契約を結んだ選手もいます。またこのW杯では男子だけでなく女子の大会もあるんです。個人的にはとても驚きましたが、これも世界の常識のようです。日本で当たり前だと思っていることがそうでないのだと感じました。
日本ではいろいろ不都合なものを見えないように蓋をしているんだと思うんです。
これはサッカーに関しても同じで、Jリーグだけが盛り上がれば良いというものではなく、
貧困状態にいる人やホームレスの人など誰もがサッカーを楽しめるようになれば、おのずと日本のサッカーは強く、豊かなものになると思います。
日本サッカーの置かれている状況は、決定力が低いとかそういった次元の課題ではないと思っています。
Q ホームレスサッカーの今後の目標は何でしょうか?

W杯については、13戦全負、得点15点、失点130点というのが現状です。
いくら目的が勝利だけではないと言っても、2万人の中から選ばれた若者と8人のおじさんが試合をすれば大差で負け、サッカー自体が楽しいものではなくなってしまいます。そのため現在はW杯のみを目指すのではなく、新しいコンセプトである「ダイバーシティカップ」※2を追求したいと考えています。
さらに、その先には海外からもチームを招待し交流などできたら素敵ですよね。
※2 今年の7月4日に開催されたホームレスサッカーメンバー、ひきこもり経験者、うつ病経験者、LGBT当事者など様々な境遇の方が集い、ボールを通じて多様性(ダイバーシティ)を楽しむフットサル大会。

セカンドキャリアに対する選手と社会のあるべき姿勢とは?

Q  高いレベルで競技を実践してきたアスリートは、引退後に苦労しているイメージが強いです。スポーツ選手のセカンドキャリアについてはどう思いますか?
当たり前ですが、現役選手は目の前の練習や試合に夢中になるべきだと思います。
選手のセカンドキャリアについては、社会の環境整備の方がむしろ改善の余地があると思っています。
プロのスポーツ選手は社会にとっても貴重な稀有な存在です。
蛭間芳樹氏(写真4)

その経験を次の世代や今の社会に広めていく仕組みを整えることが、ようとする社会の側の姿勢としてが重要だと思います。
Q 今後蛭間さんのような人材が増えていく為に今現役中のアスリートが取り組むべき事はなんでしょうか?

私が現役のアスリートの方にアドバイスできることなんてないと思います。
ただあえて勝手なことを言わせもらえば、まず現役選手でしたら今求められているパフォーマンスを最大限に果たすべきだと思います。志や信念は貫くべきだと思います。あとは、サッカーバカにならないでほしいですね。
サッカー選手である前に一社会人であって欲しいと思います。
IT、会計や金融、英語のスキルは、必要不可欠なスキルだと思います。
Q 蛭間さんの将来のキャリアプランをお聞かせ下さい。

いまを生きることで精一杯なので、特にノープランです。
将来の見通しが立てづらい不確実な時代だからこそ、その瞬間瞬間でやりたいことをやっていきたいです。
2人の子供がいるので、将来、子どもたちにどうしてこんな社会にしたんだと怒られないようにしたいですね。(笑)
あとは、日本人として生まれたからには日本を良くしていきたいです。
Q 現在、現役で活躍しているアスリートへビジネスの舞台で活躍されている先輩としてメッセージをお願い致します。

繰り返しになりますが、時には空気を読んだり、時には空気を読まなかったり、個人スキル、チームスキル、ポジショニング、そういった全ての事がビジネスの現場役立つと思います。
その為には、プロ選手であると同時に一人の自立した人間、社会人であって欲しいです。

 

【参考文献】
「ホームレス・ワールドカップ日本代表のあきらめない力」(PHP出版)

 

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